20000714
グローバリゼーションとサミットの役割
宇田 信一郎 ☆
◎ サミットとリーダーシップ
◎ ワールドガバナンスにおけるサミットの重要性
◎ 国家と近代化とグローバリゼーション
◎ グローバリゼーションとサミット
◎
サミットへの私の提言
サミットとリーダーシップ
サミットの最大の特徴は、各国のトップリーダーが、世界にとって最も必要なことを腹蔵なく話し合い、対策を決定していくことが出来るという期待です。
リーダーシップによっては、今回も事務当局の準備とは別に世界の平和と政治・経済、地球環境にとって大きな進展と世界を変えていく可能性を内包しています。
ちなみにG8諸国は人口は世界の16%を占めますが、GDPの合計は世界の67%に上ります。
サミットの今回の沖縄での開催にあたって,情報革命によってもたらされる格差の是正や、その恩恵をよりひろく享受できるようにする所謂Information Dividie は、新しく取りあげられるテーマですが、安全保障とか、世界経済とか,貿易問題、開発などの従来からのテーマをとりあげる一方、日本側の事務局側は、食品の安全、とかHIV/AIDS,Malaria,Tuberculosisなどの健康問題、老齢化、若年者の雇用問題、犯罪,環境、バイオテクノロジーなど、「オーデイナリーピーポール」の生活に結びつくためのサミットという視点に重心をおく立場をとっているようです。
一方、私は,G8Research Groupの一員としてリサーチに役立てるよう、今回のサミット関連の多くのシンポジウムに出席しました。その中で、 朝日新聞社が6月25日にサミットへの提言を企図するとして開いた那覇での「ひらけアジア」(Okinawa Forum[ Asia’s New Openness])というシンポジウムでの第2セッション「グローバリゼーションとアジア経済」で、MR.Yenといわれる国際的に高名で、私も敬意を払っている某氏が冒頭の発言で、「サミットの影響力は、低下している」という発言をしているのを耳にしました。こういう考え方の基礎には、インターネットをモメンタムとするIT革命および加速するボーダーレス市場の拡大、国内外のネットワークソサイテイの出現にともなう情報資本主義が世界をおおい、グローバリゼーションが促進されているという認識があります。
また、先日の東京におけるサミット関連の情報関係のシンポジウムで、サミットが付随する多くの担当大臣の会議を伴うシステムに発展していることを知らずに、サミットは、イベントであって制度ではないという外国からのパネラーもいました。
首脳同士の会議といえば、サミットの始まった70年代と違って現在は多くの会合があります。
確かに,90年代に入って、冷戦構造が終結するのとあいまってたとえば、ヨーロ−ッパでは、ヨーロツパの統合が極めて密接なマクロ政策の整合性の強化や、社会政策の調整、中央銀行の設立,通貨の統合に及び、構成国の首脳は頻繁に会うようになりました。
また、現在,西欧15カ国のうち、12カ国が単なる市場経済万能主義でなく福祉や雇用面などを考えて、社会民主主義の「第3の道」といわれる考え方で政治を行っていこうという姿勢をとっていますが、米国においてこの考え方に近いのは,民主党です。ですからクリントンを含めて、西欧社会民主主義の首脳達は、昨年のフローレンスサミットのような国際会議などで会う機会が多いのです。
更に、1990年のベルリンの壁の崩壊後は、米ソ、米中などをはじめとして、首脳同士が会うことが多くなっています。
もつと本質的な理由ですが、サミットは、「世界政府」そのものではないので、もろもろの国際機関に対しての影響力も、現在のところは、限界があります。
ワールドガバナンスにおけるサミットの重要性
しかし、私は,逆に,サミットは、ワールド・ガバナンス(世界統治)という立場からは、益々重要性をましていると考えますが、その理由は後で述べます。 ただ、ここでひとつの重要なサミットの変質による可能性について、まづ指摘しておきたいと思います。それは、次の点です。―――サミットは、グローバルな地球社会の進展と国民国家の変容にしたがい、時代時代によって性格を少しずつ,変えてきました。ただベースにあったものは、経済サミットとしての性格です。勿論経済的な議題から、政治的なもの、雇用面や環境面を含む社会政策的なものなど多くのものをテーマの中に含むようになりました。しかし最近の変化で、重要なものは、冷戦構造終結後のソ連の参加です。このことは、ポシテイヴな思考のもとでは、世界の安全保障について、8カ国の首脳たちのリーダーシップによっては、極めて有効な世界安定化への状況を作り出す可能性を生み出したのです。たとえば、今度の沖縄サミットで、
「8カ国の間では,戦争はお互いにはしない。もし世界のいずれかの地域においても不安定ないし、紛争が起きる予兆があるときは、8カ国は、それぞれの国の基本法の権能の範囲内で最大限の協力により安定化に努める。この協力は、不幸にして紛争が勃発した時も同様である」
という共同宣言が出来たとすると、この表現は、世界のどの地域にも適用される一般的なものであるが、台湾海峡、朝鮮半島の平和の維持に大きな影響を与えることが出来ると思います。
サミットの進展
それでは、最後の結論にいたるベースとしてサミットの進展をごく単純に振り返ってみましょう。
サミットが創設された1975年までは、世界の有力国の首脳が、一堂に会することは、稀でした。サミットを提案した仏のデイスカールデイスタン大統領は、独のシュミット首相と相談した時、日本を加えるべきと 説かれ、英、米、独、仏に日本と伊が加わり6ヶ国でサミットが,始まったことは,よく知られています。
現在、サミットの国の中で、EU加盟国は,半分強ですが、EUの前身ECにイギリスが加盟したのは、1973年で、サミット設立のほんの2年前です。私は、1962年にイギリスの議会を傍聴した時に丁度時の,マクミラン首相が英国のEC加盟の宣言をしていましたが、当時は、イギリスの国益は、欧州とコモンウェルスと米国の三つの足―つまり、三脚の上のバランスにあるとされ、十年以上たってからやっと加盟が実現したのです。その頃は,西欧諸国の間でさえも密接な協力が必要であるという認識であり,冷戦構造のバイポラリゼーションの対立の中に、トップリーダーである米国を交えてグローバルな問題を調整していこうという考えが存在したのです。そしてバイポラリゼーションの軍事面については、NATOを含めて、あらゆる面で米国の存在が際立っていましたから、安全保障面,軍事面では、国連や地域安全保障機構を中心とし、サミットでは、世界の経済面について有力な国のリーダーシップを発揮する。そのためには,当時高度成長を続け第1次オイルショツクも最良に制御した日本の存在は,無視できないということであったと思います。
このような成立の事情から,70年代は、経済サミットの時代といわれますが、この時代は、カナダを加えた7ヶ国が国際通貨制度や,米、日 ,独の機関車論や成長率目標設定、貿易自由化をめぐって東京ラウンド合意、第2次オイルショック時のエネルギー消費・輸入量の目標合意など、世界的なアナウンス効果もありました。
79年のソ連のアフガニスタン侵攻以来,80年代初めより、経済問題とともにサミットで政治問題が取り上げられはじめました。対ソ強硬声明や,安全保障団結声明、民主主義声明,人権問題あるいは、デタントなど、冷戦構造の時代の反映ともをいうべき緊張関係が、サミットに現れていたのです。
冷戦終結前後には、ソ連のオブザーバーとしてのサミット出席開始のころ、日本の、北方領土問題も論じられました。
また南北問題もサミットで取り上げられはじめ累積債務問題、開発途上国重債務国の救済につながっていきます。
核不拡散, 軍縮、民族問題、コソボ、原発安全性、雇用対策、国際機関改革, 温室効果ガス削減、地球環境、国際金融システム、経済構造政策、教育と、安全保障やグローバルな政治経済のみならず、各国の國内政策にも大きく影響する主要な問題を殆ど網羅しています。
つまり、サミットでは、グローバリゼーションに関連する殆どの問題が、先取りされたり、後追いしたりしたりしながら取り上げられています。
国家と近代化とグローバリゼーション
グローバリゼーションは,国民国家の形成や、発展、成長, 変容に大きく影響を与えていることは論を待ちません。
このことを逆に,個別の国家からみるとどういうことになるでしょうか?
少し長いスパンで国家の近代化を考えて見ますと、次のようなことがいえます。「各国のそれぞれめざす近代化の中で起こる出来事と現象は、その国特有の歴史的、経済的,社会的,文化的条件に大きく影響されながら、実は世界的総合社会の形成過程の中で起生消滅する」という特徴を持っています。 実はこれは、1958年に私が書いた「国家の国際性に関する1考察」という論文の冒頭の一節です。今、世界的総合社会の形成過程をグローバリゼーションという言葉に置き換えて19世紀以来の日本の場合を考えてみますとおよそ三つの局面で日本は、
グローバリゼーションの挑戦をうけています。その第一は,19世紀半ばの明治維新で,西洋の圧倒的なパワーに対して何とか国の独立を全とうしなければならず、近代化を急がねばなりませんでした。この時、世界史上稀なることが起こったのですが、スエズ運河が完成して世界旅行が可能になったわずか数年後に、
内閣の半分ぐらいの有力閣僚を中心として100名余の人々を足掛け3年にわたって米国,欧州に派遣し、帰りにスエズ経由アジアをまわり、西欧文明を徹底的に研究し、米国大統領や、ヴィクトリア女王にもあってアングロサクソン型の文化に深く感銘を受けました。ここまでは、この使節団の派遣されるもととなる精神的な啓蒙をうけた日本の近代的思想家福沢諭吉と同じだつたのですが、この使節団は、ビスマルクに会って、大いなる影響を受け、遅れた国が、先進国に追いつくためには,「富国強兵」と「官僚国家」しかないと結論し、この考えが、1945年の敗戦まで国の基幹的な政策となり、その道をひたすらたどったのです。 現代においても、我々は,「開発独裁」の方が「民主国家」より、近代国家へ発展するためには都合がよいという考えを持つ国家が存在することを観察する事が出来ます。日本がその後、西欧のアジア侵略をはねのけて、独立をまつとうしたのは、まさにこの国家目標が成功したからで, 西洋の制度や産業革命の生み出したシステムをミラクル的に自家薬籠中のものとしたのですが、最後に軍部独裁を招き、敗戦にいたりました。
日本の第二のグローバリゼーションへの挑戦は敗戦により、「民主主義国家」への道を本格的に歩みだした時です。この時軍閥はなくなりましたが、官僚制度は残り,日本復興と高度成長を一面では支えました。しかしそれが、現在では,制度疲労を起こし,公的セクターと私的セクターのバランスが、先進国のなかでは、最も「公的セクター」に傾き、ちょっと大げさと思いますが、ゴルバチョフが共産主義の理想はソ連が崩壊しても日本に残っているといつたといわれるくらいの程度に達しているのです。このように過去の残滓が足かせとなっている時に、第三のグローバリゼーションに日本は直面しています。―今度は本当のグローバリゼーション―即ちIT革命がアクセリレーターとなってのボーダーレス社会とグローバルエコノミーへの進行,主権の変容,生活様式を含む社会の変容、規制緩和、世界標準化とローカル化の同時共存、国によっては、開発独裁から人権尊重と民主主義革命へいたる政治革命などーー眞のグローバリゼーション――世界総合社会の本格的形成過程に入ったのです。
20世紀の終わりの今では,グローバリゼーションは、世界全体で直面していますが、日本の場合は、近代的国民国家の形成過程そのものが、グローバリゼーションへの挑戦だったのです。
私がここで日本の例を持ち出したのは,現在の190の世界の国民国家が、タイムラグ、Cultural lagがあるとはいえ、多かれ少なかれ、日本のたどってきた道と類似の経験をしているからです。つまり、現在の世界の国家の中には,日本の第一,第二,第三のグローバリゼーションに似た環境の中にある国々が
同時に存在しているのです。そしてその事が、地球社会の様様な問題を提起しているのです。
グローバリゼーションとサミット
そうすると、世界政府とか世界中央銀行の存在しない今、「サミット」で扱う世界的な問題,地球社会の問題は、同時代でなおかつ,人類共通の問題、政治制度や、経済運営の問題であると同時に、いろいろの発展段階にあって近代化を図っている国々のニーズに対処しえるものでなければなりません。
一方、現在進行中のグローバリゼーションは、ネツトワーキングソサイテイ、情報資本主義の成立とあいまって都市国家連合、世界企業連合,さまざまのNGO連合などを生み出す可能性があります。さらにグローバリゼーションとローカリゼーションが同時に進行する面もあります。一国内においても、特に文化的な背景の違いから、ローカリズムが、世界のいくつかの地域において強烈に勃興しつつあります。単一国家はグローバルな問題をそれ自身で解決するには、小さすぎ、ローカルデボルーションを制御するには、大き過ぎるといわれることがあります。
しかし世界政府が出来るまでは、実効力ある最終的決定をもたらす単位は国家です。
いろいろなグローバルな問題を解決する一つの方向は、国家同士が,RegionalなLevelで連携したり、政策を決定したり,統合度を深めていくことです。
たとえば、私が、長く働いてきた放送業界では、地域的な利害を調節するのに地域放送連合の組織が出来て,ネクストステップとして世界的な問題に取り組んできました。
つまり、グローバリゼーションの進行につれて、起こって来る様様の問題は,EUのような地域国家連合を発展させることによって解決するのが、一つの方向です。EUの場合、最もGDPの高い国と少ない国の格差は2倍ですが、アジアでは、18倍です。ユーゴなどの例はあるにせよ、ヨーロツパの文明的,宗教的類似性にくらべてアジアでは、文化的多様性と経済格差が大きいので、EUのような統合度は、当分無理といわれています。しかし、最近では、アジアも、ASEAN諸国でAFTA(ASEAN域内貿易協定)により、2018年までに域内関税を撤廃することになっています。地域内の枠組みと内外の二国家間協定の組み合わせ(検討進行中の日本―韓国、日本―シンガポール経済協力)で協力が深まる方向にあります。さらに近年のアジア経済危機は、アジア諸国の協力を深める方向に働いています。通貨危機の再発防止を防止するため、マニラフレイムワークを通じ,域内のサーベイランスメカニズムが発足し、本年5月には,ASEANプラス日,中、韓の枠組みの中で、地域における自助・支援・メカニズム強化のスタートとして、域内各国が各々に、スワップ・レポについての2国間協定の締結を図ることを内容とした「チエンマイ・イニシアテイヴ」が合意されました。為替安定メカニズムについても、ドル・ペヅグ為替制度が貿易の不安定化と過大な資本流入を引き起こしたことを考えて、ドル・円・ユーロなどをコンポーネントとする通貨バスケットの構想も検討されています。
サミットは、地域国家連合ないし、地域国家協定が、戦前のブロック経済の復活ではなく、グローバリゼーションのプラス面に働くようリーダーシップを発揮することが必要になってきたといわねばなりません。
もう一つの方向は,国際的な組織、特に専門機関をふくむ国連、ことに、World Bank,IMF,国際決済銀行、WTO,UNDPなどの国際機関がこれらの問題に有効な処方箋をだして解決していくといいう方向があります。
しかしこれらの機関が相互に連絡し、協力し合って地球社会の問題を解決していく体制は、いまだに不十分です。たとえば、1997年のアジア経済危機のあとworld forum のような連絡事務局が出来ましたが、有効な統合的組織ではありません.
サミット諸国は、これらの機関にたいしても影響力を発揮しえます。G8の国の半分は、国連の安保理の常任理事国であり、たとえば、IMFのような機関での意思決定のための投票権はG7の国だけで決定的です。殆どの国際組織について本格的に機構や機能を変えていこうとすると、サミット諸国の影響力が一番あり、つまり、これからのグローバリゼーションの社会、経済、政治、安全保障、地球環境など重要な問題を解決していくには、G7/G8の影響力が最も有効であるといわねばなりません。
地域安全保障の問題でも、コスボの空爆は、NATOが国連の同意なしに始めましたが、その収束にあたっての政治的決着はG8の外相会議でした。
私は、数年前、日本の外務省の外郭団体国際問題研究所と共催して当時LSE教授であったJames Mayall 教授のレクチュアによる「民族紛争と国連の危機」と題するフォーラムを開催したことがあります。今回沖縄サミットを迎え、Perspective of
the 21st Century: Beyond
the Century
of the Confrontation というテーマで開催された国際交流基金のシンポジウムにMayall
教授が今度はケムブリジ大学教授として来日しましたので、NATOのコスボ空爆が国連の許可なしにはじまったことについてどう思うかと話したところ同教授は国連の権威にとってマイナスであったと述べていましたが、私はむしろG8サミット諸国の紛争解決能力を如実にしめしたものと捉えられるべきと思います。
つまり、我々は、サミットの影響力を過小評価するべきでなく、地球社会の平和の発展に有効に使用されるべきと考えた方が建設的ではないでしょうか?
また、安全保障だけでなく,G7蔵相会議・中央銀行総裁会議に加えて,G20蔵相会議というものができましたし、この他通商、環境、教育、雇用、国際テロなど、サミット首脳会議の補佐的な担当大臣の会議があり、ますますサミットの取り扱う問題はグローバリゼーションの各段階に対応するのになっているのです。したがって,実効ある世界のリード役として、ワールドガバナンスのための有効な担い手として、これからもサミットの役割は、グローバリゼーションの進行とあいまってその各段階で有効であり、また有効にしなければ地球社会の各国家の共存が達成されないのです。また、サミットで合意した決定事項に対する各国の達成度、いわゆるコンプライアンスの比較的割合が高いのは、サミット諸国のworld
governance に対する責任感をしめすものであり、そのことは、今後の世界の他の国に対する影響力を考える時に重要なポイントとなります。
サミットへの私の提言
それで私は今回のサミットの開催国のオーディナリー・シチズンの一人としてこれだけは実現したらいいというものを時間の制約もあるので目標を三つに絞って、今回のサミット関連の一連のシンポジウムでは、一般に議論されていないものを中心に述べたいと思います。
@ ひとつは、冒頭に述べた世界の平和と安全保障に対する「沖縄平和宣言」ともいうべきものです。第2次世界大戦の犠牲となった沖縄からの平和の発信につながります。私は1部の政府関係者にせつかくアジアで開かれるサミットなので、台湾とか朝鮮半島の平和の促進について首脳間で合意に達する好機ではないかとそれとなく話したのですが、サミットは世界全体を対象にするので、1地域だけではどうかという反応でした。そこで冒頭に述べた平和宣言を考えたのです。たとえ、抽象的な宣言であっても、G8各国が宣言し、コムプライアンスも期待出来るものであれば、世界の国々に重い反応を導き、かえって長期的に意義深いものになる可能性があります。ここで冒頭の文言を繰り返しますが、「8カ国の間では戦争はお互いにしない。もし世界のいずれかの地域において不安定ないし紛争が起きる予兆があるときは、8カ国はそれぞれの国の基本法の権能の範囲で最大限の協力により安定化に努める。この協力は不幸にして紛争が勃発した時にも同様である。」この宣言に加えて「G8の諸国は武器をG8以外の他の国に売らない」という点にまで至れば万万歳ですが、一足飛びには困難といえます。
A 次に、アジアの危機において見られた国際経済組織の対応をより良く進歩させることについて、昨年のケルンのサミットで一応の宣言がなされました。ケルンで、G7蔵相は、International Financial Archtecture に関連し、資本移動についてのモニタリングや、国際的流動性の供給等、国際金融システムの強化に関する報告がまとめられましたが,更にこれを進めて、世界的国際経済組織の合意した意思決定が有効に働くよう、さらに組織の改革を進めるためサミット諸国が指導性を発揮することが必要です。(7月8日)の本年のG8蔵相会議では、世界経済持続成長についてのIT活用を骨子とする合意が発表されましたが、IMFの融資制度、出資比率の見直し、通貨危機予防への地域的な通貨協定を歓迎するという国際金融システム改革についても前進がありました。
私自身昨年のサミットの前に開かれたイギリス政府のシンクタンク、ウィルトン・パークで開かれた会議で「Managing
an Integrated Economy, What’s Role can Asia and Europe Play?」という題でプレゼンテーションをしたのですが、例えば1960年代に有効であったIMFの経済破綻国に対する対策は、最近では必ずしも妥当とはいえません。昨年来、アジア経済の回復が著しいので事の本質の把握とそれへの対応が先送りになっては、将来何回も起こり得る世界経済の危機に対してより痛みの少ない解決を得ることは難しいと思います。アジア危機の場合は根底に例えばGDPの40%近くまで借金をした国があり、それが最後には短期の借金が大部分を占めたことが背景にありそれが潜在的な原因ですが、基本的にはIMFの基準でもインフレもなく財政赤字もない、つまりIMFの評価では、それほど経済のパーフォーマンスが悪くなかった国で、短期資本の流出が引き金となって資本収支の悪化がもたらされ、急激な国際流動性の喪失を招き、引き続く過度の通貨のデバリュエーションがもたらされたこと、それによって負債がさらに増幅されたことが直接の原因です。その解決策としてのIMF等の国際機関が提示した緊縮政策は当該国の国内流動性を縮小、さらにそれがGDPの減少というプロセスをたどったことは忘れられてはなりません。例えば1997年の12月24日、IMFが韓国に緊急融資をすることによって韓国の国際流動性の問題は救済されましたが、そのときの条件であった急激な国内の緊縮政策が国内流動性の急激な減少をもたらし、GDPの過度の減少に至ったプロセスは将来参考にされるべきです。アジア危機と同じ原因でおこったと考えられるメキシコ危機については一ヶ月以内に500億ドルが融資され、米国の対応とイニシアチブが迅速でしたが、アジア危機の場合は日本が域内安定基金の制度を提唱しても、実際は、アジア危機がソ連、ブラジルの危機に及び更に米国のLTCMの破綻にまでつながっていった事態に至るまで日本案に対する協力などについても対応が遅れました。
こういう事態に対処するための世界の経済組織の協力や理論的な政策決定はまだまだ改善する余地が大きいのです.
通常の経常収支危機に対しては、マクロ政策の緊縮とサプライサイドの「構造調整」がとられるべき政策であり、(macroeconomic belttightiening
and supply-side ”structural adjustments”)50、60年代の独、仏、英などの場合をはじめとして伝統的に国際経済機関は、援助の見返りに当該国に厳しい緊縮政策を求めたのです。アジア危機の場合には、世界の実物経済の動きに対してoverwhelmingly
に多い金融の世界的な徘徊の時代に発生した危機でしたから、まづ、国際的な社会側から、(1)緊急資金の提供、(emergency
financing)(2)外国民間短期債務の強制的ロールオーバー(compulsory
rollover of short-term foreign private debt)(3)行過ぎた為替減価の是正(corrective
excessive undervaluation)(4)需要拡大のための国際協調(coordinated
demand expansion)が第一段階でとられて国際流動性の危機が回避されることが求められる。次に国内的には、(1)金融引締めや財政緊縮を行わないこと(no-need
for tighter monetary policy and fiscal consolidation)(2)無制限かつ無条件の国内流動性の確保(
unlimited and unconditional provision of domestic liquidity)、(3)銀行を生き残れる銀行とそうでない銀行に分類し、将来のリストラを条件に公的資金を得られれば生き残れる銀行に対しては、強制的な資本の注入を行う。(compulsory
bank recapitalization)(4)自己資本比率達成の1時的な免除(temporary
suspension of capital
adequacy standards)、(5)市場を通じない資金供給などの政策が必要度に応じて、1時的にとられる必要がある。(providing credit through non-market channel)
以上の対策は、新しい国際危機には、新しい政策対応が必要というADBIの報告にもとずいていますが、このような政策がとられた後、モラルハザードや経営者の責任追及、そして本格的なリストラ政策へ移行するべきです。
このような政策が取られ得るような国際経済機関への改革は、決して容易ではありません。これについてはIMFの改組や他の国際経済機関との協力も含めて現在いろいろな計画案ができており、また7月8日終了した本年のG8蔵相会議でこの項Aの最初で触れたように一定の前進もみられました。
サミットは、この国際機関の改革及び対応策、国際経済組織相互の協力について常に指導的な立場をとり、特に国際機関相互の協力についてはG8の中で担当者会議を設けることも考えてよいと思います。
B 次にICTについてですが、私は1986年にTelecommunication,
Information Development and Economicsという国際会議が2日間日本の外務省で開かれた時に、二人のゲストスピーカーの一人として放送分野の国際協力について述べたことがあります。そのときにPAl,NTSC,SECAMという世界の三つの放送システムをAufhebenするハイビジョンシステムを紹介するため
会議参加者を見学に連れて行ったことがあります。これは放送システムの標準化に関連する問題でしたが、IT分野の開発途上国への協力という観点からみますと、ITの恩恵を被援助国のあらゆる階層の人が受けやすいようにするために、ドナー国や国際機関で出来る戦略があります。
この点に関連して今度の沖縄サミットを記念して、7月3日、4日には「ITと開発協力」という2日間のシンポジウムが東京で開かれましたが、この会議で、私の指摘した点も含めて2つの重要な問題について触れたいと思います。一つはITについて特に開発途上国のITに対するアクセス、コネクティビティーには,格差があることは、よく知られています。ITUによると、Internet Host コンピューターの96%は、高所得国にあり、たとえば、フインランドの持っている数は,ラテンアメリカ全体の数より多いとされています。このようなハード面の格差に加え、他の国の言語を学ぶことの出来る人々とそうでない人々の間にも格差が生じます。インフォメーション・デバイドという言葉がありますが、その言語によってそれを知るものと知らないものの間に差が出てくることつまりインフォーメーション・デバイドのひとつが拡大することを防ぐハードの開発が必要です。私はコンピューターのハード面でこれを解決していく方法があると思います。英語がベースであろうとなかろうと、翻訳ソフトを例えば「トロン方式」のようなシステムに組み込んだPCの開発です。これは日本では80年代に研究が進められたのですが、当時半導体分野で圧倒的にシェアが多かった日本が米国からの申し出で生産枠を設けられたときにこの方式の開発についてもブレーキがかかったといわれています。しかしこの方式は今でも有効で、このようなハードウェアの開発をすすめていけば、各国ごとの文化の固有の価値を保存しながらグローバルなITインターネット社会を享受できることになります。あるいはビジネスのためのITの利用なども持つものと持たざるものとの差が広がらないかたちでIT革命の恩恵が受けられると思います。
自由な競争によるマーケットでのITの普及は、普及として、国際公共財としての開発への援助としては、このような言語変換可能なハードの提供面での協力を世界戦略として取るべきであるというのが、ITに関する第一の私の提案です。
次にデジタル・デバイドといわれるむしろ先進国間の間にも広がっていく格差の問題があります。先程、私は放送システムの間に3つのシステムがあって,それが相互間の交流の阻害をもたらしていたことを述べましたが,デジタル化が進んでいくと放送、通信、コンピューター、インターネット、データベースの総合的なシステム、それを利用するための地上回線,衛星回線,CATVなど多面的なシステム統合の動きが出てくると考えられます(英米先行)。この場合にもデジタル・デバイドを深くしないような公正な標準化について努力していくことが必要であると思われます。サミット諸国としては、通信、放送を融合する国内法の整備も必要であり国際的な調整も必要です。出来れば、法の整備,合理的な国際システムの選択について、サミットの担当者と国際専門機関との連絡協議会議を設けることも視野にいれるべきというのが,私のIT分野についての第2の提案です。
ここで、情報革命に対する私見を簡単に付け加えておきましょう。
日本では、接続料引き下げとIモード推進によって手近に電子取引、インターネット利用、データベースの利用が一挙に身近になるという点が識者の間で喧伝されています。このうちIモードなどは、国際標準化につながるものとも、私も思っていました。接続料の急激な値下げについては、より進んだ国が、マーケットを早く吸収する戦略という点もなきにしもあらずと思いますが、肯定的にみれば、Bto C, B to B まで視野にいれたIT革命の大衆化を推進するテコといえましょう。しかしこれだけで、パイオニア的なリーダーシップをとれると強調すると情報革命の本質を見失うと思われます。むしろ、通信、放送、コンピュータの融合によるデジタルインテグレーションをいかに公的セクターやシンクタンク、大学、研究機関の「政策課題へのアプローチ」『知的創造性の発揮』、私的セクターの「製造技術・システム革新のための利用」「マネジメント」「マーケッテイング」、両者を含めた『世界戦略』のための情報収集とポリシー立案、さらに、知的社会の発展に向けた人間開発を伴ったIT革命をすすめられるかどうかがデジタル・デバイドの分かれ目となると思います。
この他、マクロ経済政策の協調、持続的成長、南北格差縮小への企画,開発への取り組みと経済協力に関連する問題、WTOでの貿易問題,環境問題, WIPOなどの知的所有権、特許権、 などサミットがリーダーシップを発揮すべき問題は、益々多く、それらの問題の解決のプライオリテイをサミットは示すことができます。特に国連をはじめとしたもろもろの国際機関へのリーダーシップの発揮は重要です。安保理の改革もそのような視点が不可欠でしょう。
換言するとグローバリゼーションは、20世紀末の現代では,世界全体が直面しているのですが、グローバリゼーションの進行過程で、サミットは指導力の発揮を求められており,また、World Governance としては、現時点では最も有効な地球社会共存と発展のためのFrameworkということが結論されます。EU諸国のように、首脳同士が頻繁にあわないサミットの構成国にとっては、現在のサミットを維持、発展することが、グローバリゼーションに対する最良の戦略といえましょう。
最後に、本年は、20世紀最後の年です。20世紀は一面において対立と戦争の世紀であつたといわれますが、対立を超えて21世紀が,人類にとって希望の世紀であるよう、首脳同志が@で述べた宣言に加えて、何らかの「平和、繁栄、協力による人類共存、地球環境との調和」を、宣言することが出来れば、次の世紀への橋渡しとして意義深いことと考えます。
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